2017年7月
保育心理士エッセイ

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牧野 桂一
(公益社団法人 大谷保育協会 保育心理士会代表)


『保育心理士のめざす保育と早期教育』


保育の現場でも近年、早期教育ということが大きな話題になっていて、保育心理士の仲間もそのことをどのように受け止めるべきかという質問を受けることが多くなっています。特に、アスリートの活躍の低年齢化とかピアニストの辻井伸行さん、将棋の藤井聡太さんなどの天才的な人々の早期の活躍が目を引く中で、年少の子どもたちのスポーツクラブや将棋教室などの習い事に通わせる親が爆発的に増えているといいます。そのことは、保育園、こども園、幼稚園の保育の内容についてもかなり影響が広がっていて、ここでの早期教育つまり小学校の教育内容の先取りや画一的な一斉指導という教育方法が、保・幼・小の連携という名の下で広がっているというのです。
 しかし、このような話題に上る人々の活躍の背景を少し詳しくみてみると「親がさせたいことを親の一方的な意向で始める」のではなく、どこまでもそれぞれの子どもの興味・関心のあることを子どもの自主性・自発性に基づいてのびのびと取り組んで、才能を開花しているのが実態のようです。一見早期教育に見えるような人たちも決して「大人が引いたレールの上を強制的に走らせる」ようなことはしていないのです。藤井聡太さんの母親は、「自分は将棋はできないし、聡太さんのあるがのままを肯定的に捉えて育ててきた」といい、決して早期教育を目的としていたのではないということが伝えられています。
 私たちもこのような子どもたちの育ちの事実に学び、子どもの発達を無視したような大人の課題を押しつける保育は、「子どもが現在を最もよく生きる」ことには繋がらず、子どもたちの才能を伸ばすことにもならないことを知るべきです。
 新しい保育所保育指針や幼稚園教育要領の内容も示されましたが、そこには保育心理士会の歩みの中で確かめられてきた子どもの育ちの真実とルソー、ペスタロッチ、フレーベル、関信三、倉橋惣三から今日まで続く、子どもの願いと発達の筋道にそった保育の王道は貫かれています。私たちは、どまでも子どもの本質的な育ちを無視するような早期教育については、一人一人の子どもの最善の利益に配慮するためにも避けなければならないのではないでしょうか。



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