2017年8月
保育心理士エッセイ

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北脇 三知也
(滋賀LD教育研究会顧問)


「ひびき合い・高め合えることを楽しみに」
             
 特別支援に係る巡回相談に携わるようになって20年になったのを機に、昨年「学校現場とひびき合う・そして高め合う」をまとめ、出版しました。本の表紙に知人がイラストを描いてくれました。こんな姿で学校・園訪問をしています。私の後ろにいるのはハグちゃん達です。私の分身であり、子ども達や担当の先生にハグして、心を通い合わす存在です
巡回相談は、平成8年にスタートしましたが、最初は文科省の事業であったため、保育園やこども園は対象外でした。その後、福祉保健部の発達支援センターなどが行っていた就学前の子ども達の発達相談と小・中学校の巡回相談を一体化する自治体が増え、現在に至っています。
ふり返ってみますと、昭和58年、A幼稚園でBちゃん(4歳児)に出会ったことが、私の特別支援に係る原点的体験でした。Bちゃんは
・ 色の名前を英語では言えるのに日本語では間違える。
・冗談が通じない。(サツマイモの苗に如露から水をかけている時、まわりの子どもたちが「おしっこ、ジャアジャア」と囃子たてたことがどうしても許せない。)
・ことばに広がりがない。(セーターはセーターであって、洋服の一つだとは理解できない。
・一方、難しいことばをつかう。(「宇宙の果て」、「将来はロボットを研究する博士になる」、「僕の家族」など)
現在の発達科学ならBちゃんの症状をASD(自閉性スぺクトらく障害)と診断するでしょう。しかし、その頃はまだ、そんな知見はありませんでした。一般保育の中で彼が示す特異な行動をどのように理解し、援助していくかを探ることになりました。Bちゃんは友だちとぶつかりながらも,ひびき合っているのです。これを手がかりにいくつかの支援の方法が原理化されていきました。
・保育者が直接指導するよりも、友だちの行動をモデルとして示すことの方が有効であること。
・不適切な行動には、状況場面の自分勝手な受け止め方が原因しており、この受け止め方を是正するような働きかけがないと改善に結びつかないこと。担当者はあせらずに、Bちゃんとひびき合いながら状況場面の読み取りを一緒に考えていくこと。
などでした。一般保育の中でのインクルーシブ(共に生きる)教育が効果的に実施できることをBちゃんへの指導を通して学ぶことができたのでした。
この20年間で、Bちゃんと同様のひびき合う関係をもとにした「共に生きる」姿に多く接してきました。私も、そのひびき合いの中に入れていただいたのでした。
何年間が経ちました。私は「ひびき合う」ことだけに満足していてよいのだろうかと思い始めました。巡回相談での私の専門性が問われるようになったのです。一般社団法人日本LD学会が主宰する「特別支援教育士養成講座」を受講し、SENS−SV(特別支援教育士スーパーヴァイザー)の資格を得ました。「ひびき合い」の現状を基に、「高め合う」関係構築に働きかけられるようになりました。
最近は老化が激しく限界にきているのですが、老骨にムチ打って園訪問をしています。「ひびき合い、高め合うことが楽しみ」だからです。


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